2025年1月1日から12月22日までに読んだ本を振り返ってみました。
<ノンフィクション>
1990年代に一度都内でリバイバル上映をしていて、ちょうど当時学生だった自分が友達と一緒にそれを見ていたことを思い出した。でも、正直全く話は理解できず、映画は長く、画面は黒く、三船敏郎の太ももしか覚えていない。ちなみにわたしは映像に対する感度が戦慄するほど低い。だから映画があまり得意ではない。
それはともかく、「七人の侍」はその後、40代半ばで2度目を見て大体の筋をつかみ、今年は立て続けに2回見て、普通の人が1回見たくらいの理解はできたと思う。その直後のアツアツのうちにこれを読めてよかった。映画の名場面や小さな場面の再現、その場面にはどういう役割や効果があったのか、そしてその裏では何があったのか。まずわかりやすい文章でありがたいし、基本的に「親・黒澤」な筆者なので読みやすい。当時を知るいろいろな人たちの証言も上手に挿入されている。読後、映画をもう一度見たくなるが、まだ見ていない。
1「わたしは楳図かずお マンガから芸術へ」楳図かずお 石田汗太(聞き手)
亡くなる1か月前くらいまで答えていたインタビュー。わたしの脳内の楳図かずお事典の虫食いだったところがかなり埋まる。例えば、家族のこととか、今まであまり詳しく語られていなかったことについてもよく話してくれている。(4つ上の異母姉のこと、父親の自死、弟もいるけど姉ともども付き合いがないこと、など)
楳図かずおはよく「天才」とか「奇想の人」みたいなイメージで語られる作家だけど、実像は、人間の力を超えた鋭い直観と、それ以上の深く粘り強い思索・緻密な考察、そこをぐわしっと融合させて作品を生み出す偉人で、特にこの本を読むと、楳図が生涯をかけてひとつの作品をずっと作ってきたということがよくわかる。あの作品もあの作品も、全部つながっていると思い知らされる。
聞き手もとてもよかったけど、ここはやはり楳図研究の第一人者高橋明彦先生でもっとボリューム(ページ数的に)のある本になっていたら最高だったなあ・・・とは欲張りすぎか。
1「渇愛 頂き女子りりちゃん」宇都宮直子
まず思ったのは「みんな愛に飢えている」のではなく「みんな愛情を注ぐ対象に飢えている」ということ。愛されるよりも愛したいマジで、なのだ。
1977年生まれの筆者が興味本位で(と言っていいと思う)りりちゃんに接触していく過程で、どんどんりりちゃんを好きになってしまうところを読んでいくと、自分も同じ立場だったらこうなるだろうと心底共感する。そのくらいりりちゃんには人を引き付ける何かがある。りりちゃんの数ある才能のうちのひとつとして挙げられるのは、目の前にいる人が求めている言葉をつるっと言えるところ。筆者の取材に数回答えたりりちゃんの実母が全く同じタイプの人であることも衝撃。でもこれ、決して悪い能力ではないので、まあ、悪い方に使っちゃったという話なのかもしれない。
しかし、そこで被害者の一人が取材に応じてくれて、実際に話を聞くうちにりりちゃんの犯した罪の重さ・残酷さに気づき、目が覚めるあたりもかなり率直に書かれている。被害者は預貯金をすべて奪われ、生きることに絶望し、SNSの二次加害にさらされ、同情や支援も受けられない。
問題は父親だ。幼いりりちゃんを裸にして噛んでいた、という「え?」と聞き返したくなる事実に対し、妻である母親は「はい。夫には確かに噛み癖がありました」とか答えるんだけど、どうかしてるし、妻は好きで一緒にいるんだから噛ませてやればいいけど、子供を噛んだら徹底的に抗議してやめさせるべきでしょう。っていうか、本当に噛んでただけか?という疑問も湧いてくる。そして何より、筆者はこの父親に取材できていない。何が残念って父親を引っ張り出せなかったことだ。無念。
最後の方の「頂き女子」という映画(企画倒れ)を撮ろうとした監督の言葉、「“ギバーおぢ”は精神・経済・社会的に困難を抱えている人が多い。それをカタに嵌めるという「悪」の話であって、決して男女の話ではない」に納得した。
4「本が読めない33歳が国語の教科書を読む」かまど・みくのしん
みくのしんの読書シリーズ第2弾。「やまなし」「少年の日の思い出」「山月記」「枕草子」。
どれもおもしろくて続けて2回読んでしまった。前作からのみくのしんの成長(変化)にじんとくる。ふろくの“逆転”(かまどの読書にみくのしんが付き合う)を読むと、かまど(普通の読書する人)より、みくのしんの方が数倍いい読書をしていることがはっきりわかりうらやましい。言葉に対する感度といい、共感する力といい、すごい能力だと思う。「枕草子」の項は、教科書に出てくるやつ、というテーマのため「春はあけぼの」を読んでいたけど、もっといろいろ読んでみてほしい。そしてどう読んだか教えてほしい。
あと、かまどが学校国語教育を憎みすぎ。
5「飢餓俳優 菅原文太伝」松田美智子
まず、俳優ではなくモデルがスタートというのが(聞いたことがある気もする)意外。若山富三郎や深作欣二といった登場人物も濃くて濃くて鼻血が出そう。松田美智子の評伝はほかにも読んでいるが、資料と取材の組み合わせかたがとてもうまくて、ぐいぐい読んでしまう。
菅原文太は、一緒に「仁義なき戦い」などを作った日下部というプロデューサーとうまくいかなくなって別れてしまい(日下部からしたら菅原に「無視された」)、ヒット作も「トラック野郎」で止まってしまった。もっと上手に渡り合っていたら、緒形拳や仲代達矢以上の成功を収めただろう、という指摘に納得がいった。あと、奥さんの影響も大きそう。知性あふれる奥さんというのもいいのか悪いのか。菅原のコンプレックスを強めてしまった。とくに晩年はそんなかんじ。「トラック野郎」にかかわった人たちの同窓会的な集まりにも一度も顔を出さなかった、というエピソードもファンとしては悲しい。中学までは優秀で、進学校に入ってからガタガタになった、というのを引きずったままだったのではないか。「尊大な羞恥心と臆病な自尊心(李徴)」かも。
6「キミコのよろよろ養生日記」北大路公子
癌治療のしんどさ、副作用のつらさ、など、今までも他の本で読んできたけど、そのなかでもダントツでその過酷さが伝わった。しんどいめにあったとき、こうやって文章にするのは、それこそ身を削るような痛みや恐怖を伴うけど、やっぱり、やっぱり、本人のためにもすごくいいことだと思った。出来事を分析し、再構築し、客観視できる。父母を送り、自身も病を得て、よろよろ生きていくのだ、それでいいのだ、と思った。
7「俺の文章修行」町田康
なんて誠実でまじめな人なんだ。町田康ってあちこちの文学賞の選考委員を引き受けているのがちょっと意外、というか不思議だと思ったことがあったけど、その理由がこの本でわかる。
人はなぜ文章を読むのか。なぜ書くのか。自分を甘やかさないためにやっていることなんだろう。知らんけど。
8「「みんなちがってみんないい」のか?」山口裕之
みんなちがってみんないい、わけねえだろ!ということを、哲学史からずっと追いかけて説明してくれるいい本。事実を突きつけられると「オルタナティブファクト」などと寝言を言う(ドイツからの移民の子孫である)アメリカ人、醜いしたり顔で「それってあなたの感想ですよね」の人、そういう人間が何か大きなものを破壊していく。
「正しさは人それぞれ」論を冷静に品よく打破する本。
9「ウクライナ戦争日記」
さまざまな状況下の戦争被害者がとりあげられる。
ロシアに双子の姉がいる50代の男性の話がつらい。爆撃などの攻撃を受けることの無念さもさることながら、こういう家族との分断や怒りを伴う決別が、どれほど人間をぶち壊していくか。戦争さえなければ仲のいい姉弟のままだったのに。戦争は人生を一瞬で理不尽に破壊する。
松本清張ファンのわたしには「松本清張はブスと年増に厳しい」という私見があったので、そこら辺をジェンダーなんとかで酒井順子に批判されたらいやだなあ、と思っていたのは杞憂。清張作品では男も女も関係なく、どっちもきたないんじゃ!!みたいな。言いすぎか。
人間の醜さとか愚かさとか浅はかさとか、そういうものから目をそらさない、という点で、清張は男女の区別をしていない。水上勉とかの方がずっと女を見下していると思う。それが言い過ぎなら、同じ人間とは思っていない、と言える。
それから、筆者が書き手の立場から、「霧の旗」が「帝銀事件」の後に書かれている点に着目し、「事件に巻き込まれた人の家族の立場から詳しく書いてみたかったのではないか」と考察する場面はおもしろいし、正解なんだと思った。
11「平安時代のステキな!女性作家たち」「平安男子の元気な!生活」川村裕子
中高生向けに書かれた平安時代レクチャー本で、内容は充実している。とても情報量が多いしわかりやすい。しかし、中高生向け、というのにこだわりすぎで、ものすごく不自然な若者に迎合する口調になっていて、そこだけが読みにくい。そんな無理しなくてもこんなにおもしろい内容なんだから若い人も読むよ~と言いたい。
12「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ、俺がいる」村西とおる
読むと活気が湧いてくる名言集とエッセイ。1948年生まれ、この世代の価値観に触れて、とにかく頑張る!っていうのは決して悪いことではないと再認識できる。
そして心底苦労した人だからこその説得力を持つ「金のありがたさ」。
13「厨房から台所へ」タサン志麻
タサン志麻の半生が語られているけど、もしかしてこれ、前に読んだかも。
14「日本の犯罪小説」杉江松恋
大藪春彦、藤原審爾、佐木隆三、結城昌治、石原慎太郎、船戸与一、など、中には今はちょっと読まれなくなってきている(流通していない)作家もいて、そのあたりをきっちり評価しようとする肝っ玉を感じるいい本。西村京太郎の分析が特におもしろかった。書店より売店にある作家、というイメージを改めて、読んでみたいと思った。(でもここで紹介されている初期のやつは図書館探さないと読めないかんじ)
それから、筆者は「××というのを初めてやった小説はこれ」みたいな指摘をさらっとするけど、それができちゃう読書量に圧倒される。
※そのほか印象に残った本(順不同)
昭和末から平成初めの、大御所と戦後生まれの作家との乖離がすごい。大きな断絶がある。じゃあベテラン作家に選ばせるのをやめたらどうか、とも思うが、じゃあ未熟な読者という“お客様”や、利権がらみの書店員だったらいいのか、と言われれば違うし・・・。結局、ドゥマゴ文学賞みたいなやつがいいのかな。
この本の話に戻ると、小野谷敦のような「作家に対するひがみ」がなくて読みやすい。文壇や特定の作家に対する批判がほとんどないのは、この筆者が「記者」だからだと思う。
グラビアたっぷりの「眺める本」かと思ったら、結構読みごたえがあって満足した。
「感情を科学する」飯高哲也
終盤の、統合失調症の症状と、今の日本社会があまりに相似、っていう指摘に納得。
「ベストエッセイ2011」「ベストエッセイ2013」
赤染晶子の未読のエッセイを探して。でも既読でした。
「彼女たちに守られてきた」松田青子
「身近な薬物のはなし」松本俊彦
ストロング系は大麻よりやばいそうだ。でも筆者が愛煙家なせいか、酒よりたばこに数倍も甘い!!
「14歳から考えたい「暴力」」フィリップ・ドワイヤー
「ムクの祈り」タブレット純
「スターの臨終」小泉信一
「のうだま2」上大岡トメ
「あの時のわたし」岡部民
27人の女性による人生のターニングポイントの話。特に向井千秋がよかった。
「80‘s少女漫画ふろくコレクション」
少女漫画雑誌よく読んでたのに、ふろくってあんまり記憶にないなあ、と思いながら読んでいたら、ほとんどの雑誌は友達から借りていて、自分で買っていたのは、読み切りメインの「なかよしデラックス」だったと気づいた。
「カフカ断片集」
「時評書評」豊崎由美
本の話より筆者の主張の話が強くて、その内容には賛同するけど、ちょっと疲れた。
<フィクション>
1「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
主人公のジョーンという女性の中にクリスティが入り込んで嬉々として語っているかんじがまず引き込まれる。そのジョーン目線でジョーンの言い分をどんどん語っているだけなのに、彼女が抱えている欠陥がじくじくと浮き出てくるのがすごい。終盤、列車の中で公爵夫人と語り合い、駅にたどり着き、帰宅したのちのラストがショックすぎて(ほとんど祈るような気持ちで読んだ)、胃の上の方が破れそうな感覚だった。このジョーンは山岸凉子作品に出てくるある種の女性(例えば「瑠璃の爪」のお姉さん)と近い人間で、「長女タイプ」で、だからとても恐怖。
文庫の、栗本薫による解説もまた読みごたえがあった。ジョーンの周囲の人間に対する分析がすとんと腑に落ち、少し慰められた。
いつか読む、と思っていたアンにいまさらだけど着手(その後、2冊目の「アンの青春」の途中で挫折。来年は「青春」だけでも読了したい)。ファンが多いのにも納得。名言も多い。客観的にはかなり悲惨と言われても仕方ないアンの生い立ちだけど、知性、つまり想像力や思考力で乗り切るのが痛快。マシュウ・マリラ兄妹目線でも読める年齢でこの作品を読めたことはラッキーだったと思った。訳は定番の村岡花子。「○○なもんで」とか、セリフの表現にちょこちょこ甲州弁テイストが感じられてかわいい。
アンの感性が鋭すぎるところは、みくのしんを連想する。見方によっては「困ったちゃん」のアンを「愛すべき存在」として表現するには、マリラをどういう人物にするか、マリラをどう描くかにかかっていて、それは大成功している。マリラ以外のアンを取り囲む人々(リンド夫人、ジョセフィン伯母さんなど)の配置もいい。1人にアンを対峙させないで分担させているのだと思う。それから、アンを「劣等感が強い人物」として描いていて、でもその劣等感を腐らせることなく、野心と向上心を持つがんばり屋であるのもすてきだ。
終盤、アンが感動したり楽しんだりする自分を責める場面で放たれるアラン夫人の言葉に心がふるえた。
その後、アンが進路変更をするところも「そうだよなあ」と肯定できる50代になりましたことよ。
3「もう終わりにしよう。」イアン・リード
仕掛けものというか、わたしにとってはすごくおいしい「珍味」。
まず冒頭からの不穏な空気がすごい。冒頭から全然飽きないしダレない。訳もすごくいいのだと思う。ジェイクの家についてからの違和感がすごすぎて怖すぎて、もはや笑える。ラストまでずっとずっと怖い。
2日後、再読して、さらに途中でちょいちょい挟まれる短い場面だけをつなげて読んでみた。(後日2作目の「もっと遠くへ行こう。」を読み始めたが、そこまで引き込まれず、途中になっている。そんなんばっかりだ・・・)
4「ミスター・チームリーダー」石田夏穂
筋肉から離れられないのか石田夏穂。でも溶接工の話はすごくすごくよかったので、これからも新刊が出たら読むと思う。これはガチのボディビルダーである後藤が係長を務める会社での話で、今までの石田夏穂作品では一番声に出して笑える作品だった。インタビューで本作について「加害者を描きたかった」と語っていて余計に好きになった。
5「冷ややかな悪魔」石田夏穂
こっちは体脂肪率が35%を超えて「出張禁止」になった出張ジャンキー・ユカリが、会社が提携している大手のジムに通い出す、という「また筋肉か」と思わせる出だしだけど、そこで、あるインフルエンサーの落とした指輪を拾ったことから一気にテーマがはっきりしてくる。左手の薬指に指輪をしているだけのことで、「社会の(会社の、ではなく)正社員」、つまりマジョリティーになれる。世間の仲間に入れてもらえる、そのうれしさをかなりストレートに描いている。ユカリを最初から少し軽めに、それほど思慮深いタイプではなく書いているので違和感なく読める。あえてユカリを共感できないタイプに造形しているのだと思った。この指輪は「あなたも多数派になれるよ」という冷たい魔性の指輪。ラストも泣き笑い。
6「少女マクベス」降田天
これも仕掛けもの。だけど、そこに「少女の心理」みたいなのを織り込んでいて厚みがあったと思う。緻密に、精巧に作られてる作品。「珍味」でも「ごはん」でもない、「極上のケーキ」みたいな作品。
かなり前の篠田作品なので、近頃のものと比較すると少しだけ、少しだけもの足りない。それはラスト。読みながら、結局こうなるんだろうなあと思っていたオチなので「それはちょっとなあ」という期待しすぎた私が悪いのか。(たぶん悪い)
でも「春にして君を離れ」みたいなすごいラストもあるんだから、やっぱり期待はしていいんだ!と思う今日このごろ。
8「ミシンと金魚」永井みみ
認知症の女性目線で語られる話としては、以前読んだ「おらおらでひとりいぐも」よりずっと完成度が高い。
9「雁の寺」水上勉
ドラマチックで、腕力があって、ぐいぐい読める、傑作なんだけど、えもいわれぬ(悪い意味の)いやらしさがある。この人女を何だと思ってるんだろう、という不快感が最後までぬぐい切れず。松本清張にあってこの人にないものは何?と考えた。(→「松本清張の女たち」(酒井順子)にその答えがあった、と思った)
実名(大谷翔平、ローソン、梶原善、岩井ジョニ男 など)のからませ方が巧みで、とくにドラマティックな展開もない、登場人物が雑談ばかりしてる話なのに、それがとってもおもしろかった。
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今年は年明け早々、父を見送ることになり、寂しい1年でした。読書量もいまひとつ伸びませんでした。もうちょっとごつごつしたものが読みたいなあ、とか、さらっと入ってくるものがいいなあ、とか、考えてばかりです。以前は、何も考えずただ本棚に手を伸ばしていたのに。ケチになったんですかね。はずれをひきたくないという。よくない傾向です。先日は「パオロ・マウレンシグが好きなんだけど、似たような雰囲気のヨーロッパの作家はいませんか」とAIに相談する始末。読む本くらい自分で決めろ!!と自戒しつつ、2025年もそろそろおしまいです。お読みくださってありがとうございました。来年もよい読書生活が送れますように。